スカイゲートテクノロジズ株式会社で宇宙防衛事業部の事業開発を行っている先名です。10月15日に弊社が主催した「DEFENSE TECH DAY」は、防衛省、自衛隊関係者、スタートアップ、投資家が一堂に会した初の日本国内イベントとなり、大盛況のうちに終了いたしました。本稿では、そのイベントについて概要、雰囲気、私が感じたことを中心にレポートさせていただきたいと思います。開催概要開催の背景防衛テックとは、安全保障・防衛領域に対して、AI、クラウドなどのデジタルテクノロジーを用いて、領域課題を解決する企業群の総称です。日本では馴染みの浅い分野ですが、米国、英国、イスラエルなどを中心に、デジタルテクノロジーを防衛領域に全面的に適用する動きは今から20年以上前から諸国に見られ、官民ともに積極的な投資が行われている領域です。米国の巨大テック企業の頭文字をとったGAFAやFAANGと同様、高い企業価値・時価総額を有する防衛テックとして、2024年現在、SHARPEと呼ばれているスタートアップ企業群がよく知られています。これらのスタートアップは、米国防総省または安全保障関連省庁と強いつながりがあり、ソフトウェア・ハードウェアの両方で様々なソリューションを提供しています。(注:SHARPE:SHIELD AI, HawkEye360, ANDURIL, rebellion, Palantir, EPIRUS)一方、これまで日本では、スタートアップと安全保障・防衛とは縁がない状態が長らく続いており、防衛テックと呼ばれる分野はほとんど確立していません。弊社は、この状況を打開し、防衛テックにスタートアップによる技術革新をタイムリーに導入できる仕組みを実現する為に、防衛省・自衛隊、スタートアップ、VC・投資家をつなぐエコシステムを構築したいと考えています。この取り組みの1つとして、7月25日に「DEFENSE TECH MEETUP」というミートアップを開催し、日本の防衛テックがどのようにあるべきかというテーマを根底に据えて、防衛領域に関するスタートアップ向けの勉強会という体裁で大変好評を得ました。今回は、その第二弾として、民間企業に加えて、防衛省・自衛隊の方々にも多数ご参加頂き、スタートアップと安全保障・防衛をつなぐ本核的な最初のイベントとして開催しました。開催日時・プログラム概要防衛省・自衛隊、スタートアップ、投資家の方々からご講演頂き、最後に弊社粟津より将来に向けた構想をお話しさせていただきました。オープニング防衛省のテクノロジーに関する検討について(家護谷サイバーセキュリティー・情報化審議官)クラウド、AI、量子:訪れるテクノロジーの未来(さくらインターネット様、EfficinetX様、A*quantumn様)フィンランドにおける防衛テックの取り組み(ICEYE CEO Rafal Modrzewski様)新領域と安全保障に関する民側の取り組み(Tellus様、Warpspace様、LocationMind様)ベンチャーファイナンスと安全保障(ジェネシアベンチャーズ 一戸様)自衛隊の未来の戦い方(教育訓練研究本部 本部長 廣惠陸将)オープンイノベーションとJADC2(スカイゲートテクノロジズ粟津)懇親会参加企業の構成前回7月25日開催のDEFENSE TECH MEETUPでは、民間企業だけの参加であったのに対し、今回は、防衛省の方々にも様々な部署から多数ご参加いただき、官民による防衛テックへの高い関心が反映された参加状況となっており、防衛省関係者と民間企業からの参加者がほぼ半数ずつのご参加を頂いております。ご参加いただいた民間企業は、宇宙関連事業者が最も多く、ついで、VC・金融、ディープテック、クラウド、AIという構成となりました。(下記の図を参照)スタートアップに関しては、地球表面の状況を観測するSAR・光学衛星関連会社が含まれる宇宙関連事業者が最多となり、ディープテック、クラウド、AIが続いています。並行して、VC・金融関連の方々が、今後の成長が予想される防衛テックへの期待と投資機会の検討という意味で、多く参加されていたなという所感です。各プログラム・講演の内容抜粋ここでは、具体的なプログラムや講演内容について、実際のプログラム・講演内容の抜粋を掲載します。オープニング弊社粟津より、「防衛とテクノロジーの未来を考える」というテーマで、イベント開催の主旨を説明する講演をさせていただきました。最初に、米国空軍において防衛関係者と民間スタートアップが共同でハッカソンを実施している写真を例に、防衛システム開発にスタートアップが参加し、最新テクノロジーによって課題解決に取り組む様子を説明し、「この写真の日本版を実現できないだろうか?」という課題・想いを提起させて頂きました。次に、防衛テック参入にあたって、三つの異なるプレーヤーの立場から重要な観点を上げさせていただきました。防衛省の観点:防衛力強化における先端技術の取り込みの難しさ 民間事業者の観点:事業開発、契約などの難しさ投資家の観点:防衛テックの日本での市場蓋然性、成長性最後に、「点が、面となる日。」というスライドを通じて、これまでバラバラだったスタートアップと防衛省との「点と点」の繋がりを、「面と面」へと拡大させ、防衛テックの推進にさらなる加速をもたらすモメンタムにしたいという、熱い決意を述べさせていただきました。防衛省のテクノロジーに関する検討について(家護谷サイバーセキュリティー・情報化審議官)家護谷審議官が務められているサイバーセキュリティ・情報化審議官は、CIO(情報化統括責任者)/CISO(最高情報セキュリティ責任者)を直接補佐し、省内のITシステム管理やサイバーセキュリティ対策を推進する実質的な司令塔です。冒頭、ウクライナなどの最新動向に鑑みて、これからの民間技術活用の重要性についてお話がありました。2022(令和4)年末に策定された「国家防衛戦略」には「スタートアップ企業や国内の研究機関・学術界等の民生先端技術を積 極活用する」と明記されており、従来は防衛省も大企業が作ったものの方が安心だろうという風潮があったが、今はどんどん新しいものを取り入れていかなければ追い付かないということ。 特に、ロシアによるウクライナ侵略では、ウクライナが善戦する理由の一つに「GIS Arta(射撃統制システム)」が挙げられ、民生技術をどんどん活用して軍のターゲティング情報に寄与したように、今や民間技術はかなり軍事的に転用されているのが世界的な潮流です。(引用:朝雲新聞2024/10/31号)ウクライナで活躍しているGIS Artaの例は、非常にインパクトのあるトピックで、民生技術活用の側面について、私も含め多くの民間企業の方に印象的な内容であったと思います。(注:GIS Arta=偵察用ドローンやGPSなどから送信された戦場データで敵の位置を特定し、計算ソフトによりどの兵器が攻撃に最適かを判断するシステムで、敵の位置把握から発射までを1分程度で行うもの)次に、家護谷審議官が担当されている案件で、F-35戦闘機の次に配備される次期戦闘機開発についてお話がありました。戦い方が変遷する中で、如何に最先端の技術を取り入れるかが課題であり、次期戦闘機のコンセプトとして考えているのが①現時点でいずれの国においても実現されていない新たな戦い方を実現でき、②将来にわたり適時適切な能力向上のための改修を加えることができ、③さらに高い即応性等を確保できる国内基盤を有する次期戦闘機を、我が国主導で開発していくの3点。(中略)そして次期戦闘機が持つ能力の一つに「高度なネットワーク戦闘」という、新たな領域で戦えるよう味方同士をつなぐネットワークで情報共有しながら、有人機が無人機と連携したり、AIによる戦闘や生存性を高めるための補助が受けられるシステムをつくり上げる。それらを実現するためには、スタートアップの技術はどんどん入れていきたいと考えており、特に連携無人機については基本的に戦闘機についていこうとすると相当な航続距離と相応の大きさが必要で、そういったフルスペックの無人機をつくる意味でコストの面で悩んでいます。(引用:朝雲新聞2024/10/31号)と説明が有りました。戦闘機開発においてAIに期待する能力として①パイロットの意思決定を支援(コパイロット)②パイロットやオペレーターの指揮に従い、自律的に動く(ウイングマン) ③訓練の相手役(シミュレーター) を想定しており、特に我々は今、人が足りない、高齢化も進んでいる中でどうやって戦っていくのかというソリューションが民間から出てくれば非常にありがたいと思っています。スタートアップの方々が防衛分野に参入するために、防衛省では「安全保障技術研究推進制度」、や、経産省と合同で「防衛産業へのスタートアップ活用に向けた合同推進会」を設置したほか、防衛装備庁に新規参入相談窓口もあるので活用してほしい。(引用:朝雲新聞2024/10/31号)このように、今回改めて家護谷審議官がご講演で述べられた期待値というものは、多くのスタートアップ事業者が考えているよりはるかに高いレベル、あるいは思っていたよりもずっと広い範囲での課題解決を包含するものではないかと私は感じました。また、次期戦闘機の技術参入のための窓口のご紹介を頂くなど、具体的な話も多かったように思います。来場頂いていたスタートアップや投資家の方からも、将来の方向性を示唆する、とても印象深い内容であったという声が多く聞かれ、本イベントでも際立ったメッセージであったように思えます。自衛隊の未来の戦い方(教育訓練研究本部 本部長 廣惠陸将)教育訓練研究本部は、陸上自衛隊の教育、訓練及び研究開発の中核組織であり、昨今の激変する国際情勢に応じて、機動力と火力、これを結ぶ指揮通信ネットワーク、宇宙、サイバー、電磁戦等の能力を向上するため、産官学の幅広いネットワークと協力を強化して新たなテクノロジーを導入して、我が国の防衛力強化するというミッションを持っています。廣惠陸将からは、そのトップとして、冒頭、戦場の定義が大きく変化してきている状況とその対応についてお話しを頂戴しました。現代戦における戦場では、従来の陸海空のほか、「宇サ電(宇宙・サイバー・電磁波)」の計6つのドメイン(領域)で構成されていて、これらがみんな絡み合って戦うことになることを「領域横断作戦」と呼んでいます。 その中で「電磁波」を一つの領域として独立した概念で考えているのは我が国の自衛隊だけで、そういう意味では我々は国際的にリードしています。そして、陸自が将来20年後を目安に考える戦い方として「常続的な監視体制の強化」「各種打撃の連携」「バーチャル指揮所」などが必要で、戦いを構成する機能として「指揮統制」「インフォメーション」「インテリジェンス」「打撃」「機動」「防護」「戦力維持」の計7つの分野を陸自は今後強化していきたいと考えています。(引用:朝雲新聞2024/10/31号)いわゆる領域(ドメイン)の話は、非常に興味深いトピックでした。自衛隊が世界に先駆けて「電磁波」を独立した領域として捉えているという点は特に印象的です。次に、将来の戦い方とスタートアップ連携について述べられました。将来の戦い方の考えは、大体どこの国も似たようなもので、米国では宇宙との関わりを含めて「JADC2(全領域指揮統制)」と呼んでいて、このシステムを同盟国とグローバルな戦略環境の焦点となるインド太平洋地域でやろうとしています。 米国は宇宙に衛星を大量に打ち上げて、通信を衛星に頼った戦い方をしており、我々も同じようなことをやりたい。(中略)「衛星コンステレーションによる地理空間の常続的な把握」を通して、衛星と地上システム間のやり取りを現状は作戦や打撃上の制約となるほど長い時間をかけて行っていますが、これを作戦が円滑に遂行可能な至短時間にしたい。 (中略)これはどこの国でも今、同じチャレンジをしていて、競合国も同様に至短時間の 能力構築を図っています。我々も負けてはいられないので、ぜひスタートアップの 皆さんのご協力をいただきたいと思っております。(引用:朝雲新聞2024/10/31号)私たちも取り組んでいる領域横断作戦やJADC2(統合領域指揮統制)に関する内容が含まれており、さらにそこにスタートアップ企業への連携を応援するメッセージも頂けたということで、弊社のような事業者にとっては大変勇気付けられる内容でした。意外な論点であったのが、厳しい人員確保のの課題解決に向けたAI技術の導入への期待です。特に、厳しい募集環境を踏まえ、「無人化・自律化技術」で言えばロボットはすぐに欲しいし、AI技術は当然早く導入したい。(引用:朝雲新聞2024/10/31号)自衛隊員の応募が厳しい状況にあることは、皆様も新聞などで目にすることはあるのではないかと思いますが、現実的な実感としては乏しいものでした。しかしながら、改めてこういったトピックが出た点は、その切実な状況を感じさせるものでありました。このような課題も、AIをはじめとするテクノロジーに対する期待となっていることは、来場したスタートアップの皆様にとっても意外なものだったのではないでしょうか。廣惠陸将のプレゼンテーションは、まさに現場に立たれている自衛隊の将来に関する事項で、非常にハイレベルかつ深いテクノロジーの話が含まれていたことが大変に印象的でした。オープンイノベーションとJADC2(スカイゲートテクノロジズ粟津)最後に弊社代表の粟津より、弊社の目指す方向性について講演させて頂きました。今や国際社会が不安定化し、AIのようなデジタルテクノロジーなどの技術も劇的に変化する中で、迅速で正確な状況認識と意思決定を必要とする場面は、防衛に限らず、さまざまな分野で顕在化し、課題となっています。(中略)そういった流れの中で、最も強調できるユースケースが「防衛テック」分野であり、そのためには、(中略)オープンなJADC2(全領域指揮統制)として、オープン上で総合指揮統制を具現化するプラットフォームをつくる。軍事的に言えばオシント(一般公開情報)やシギント(宇宙・サイバー・電磁波領域におけるオープンデータ)から世の中のテクノロジー技術を最大限活用したり、さまざまなテック企業のオープンイノベーションを取り込み、各企業やサービスを有機的に結合させることで、社会的なインパクトをもたらし、かつ防衛にも寄与できる手段にも成り得るかもしれないと考えています。 弊社では、この「SKYGATE JADC2」を2027年までには利用できる形にする予定で、そのためにはぜひ防衛省・自衛隊、スタートアップ、投資家など関係者の皆さんにご協力いただければと思っています。(引用:朝雲新聞2024/10/31号)米国のJADC2コンセプトに対して、より柔軟な実現を目指す形として掲げたOpenJADC2という概念は、オープンという三つの視点を兼ね備えた日本の環境に合わせる形で弊社が提唱しているコンセプトです。私たちは、テクノロジースタートアップや投資家を巻き込んで実現していくべく、事業とプロダクト開発を推進しているという弊社の事業概要についてお話を致しました。懇親会(立食パーティ形式)70名近くの方々にご参加いただきました。防衛省・自衛隊の方々、民間企業の方々とが立食パーティーの形式を取りながら、名刺交換・意見交換などにより、活発なネットワーキングの場を実現できました。開場と共に会場があっという間に多くの参加者で埋まり、さらに、乾杯の挨拶が聞き取れないほど、会話と名刺交換の活発な輪が広がり、防衛テック参入に向けた期待と熱気に圧倒された瞬間でした。弊社としても、防衛省・自衛隊やスタートアップ、投資家の方々と様々な意見交換を行うことができ、今後の日本の防衛テックを推進するにあたって、大きな一歩を刻むことができたと思っております。全体を通じてこれまで、日本では、長らく防衛テックと安全保障・防衛の世界が隔離されてきました。しかしながら、ご存知のように、ロシアによるウクライナ侵攻・北朝鮮によるミサイル開発・中国の軍事力強化などのように、安全保障の外部環境が厳しさを増しております。一方、技術の世界では、米国を中心にスタートアップによる急速な技術革新が着実に進んでいます。このような環境下で、日本の防衛テックの成立、ひいてはテクノロジーと防衛というあり方に関して、少なくとも誰かが矢面に立って、この課題感を共有しながらムーブメントを起こしていかなければ、この分野に硬直したまま、日本の防衛やテクノロジーマーケットは国際社会から軽視される時代を迎えてしまうかもしれません。私たちは、これを打開するイニシアティブ確立の努力をし、その上で実直かつ堅牢なプロダクト提供と防衛省に限らず多くの方にするつもりです。今回のイベントを通じて、従来の形とは違う、防衛とテクノロジー、あるいはスタートアップの局面は、変わりつつあると感じています。弊社も、自衛官経験者とテクノロジープロダクトを組みわつつ、他のスタートアップ、防衛行政とも密接に連携しながら、"世界を変えるため"ではなく、"世界が変わらなくていいように"、日本の防衛テックのあり方をリードし、日本の誠実な防衛テックを実現していければと思っております。今後ともどうぞ皆様のお力添えを、よろしくお願いしたいと思います。満員のお客様で盛り上がる会場の様子ICEYE CEO Rafal Modrzewski様のご講演